RIHITO

第93話 救いがなくても

 ルイスはアンスヘルムをまっすぐに見据えた。 赦しなどいらない。 そんなものを望んだことは、今まで一度もなかった。「断る。他人を犠牲にしてまで生きることになんの意味がある」「そうでしょうとも。両親と婚約者を犠牲にしてあなたは生きているのです…

第92話 想いの強さで

「初めまして。あなたがアルベリヒね」 なんとか平静を装ってエミリアがそう言うと、アルベリヒがうっすらと微笑んだ。「決闘王女。あなたのことはよく知っていますよ」「直接会ったことはないのに?」「彼女から聞きました。王宮に来る前から、彼女はあなた…

第91話 囚われの騎士

「ヴェルナー」 名を呼ばれ、振り向いたヴェルナーは目を丸くした。 そこに立っていたのはアルフォンスだった。 ヴェルナーはいつも通り、ソリンの同僚たちと訓練場で剣術の稽古をしている最中だった。「珍しいな、おまえがここに来るなんて。ソリン嫌いが…

第90話 百年の孤独

 メルヒオルとユストゥスは、王宮内のある部屋を訪ねていた。 秘書に案内されて二人が部屋に入ると、髪も髭ひげも見事に真っ白な老年の男が近づいてきた。「メルヒオル。蟄ちっ居きょ中ではなかったのかね」「すまないね、ニコラ。だが事は緊急を要す事態で…

第89話 謀反

 トリスタンたちは、王宮を出たところで、やっとアンスヘルムに追いついた。 剣を構えたまま、トリスタンは行方をくらませていた同僚に険しい視線を向けた。「……アンスヘルム。おまえがルーツィア嬢を殺したのか」「ええ」「なぜそんなことを」 しかし、…

第88話 再会

 その頃、リートは落ち着かない気持ちでソファに坐っていた。 今日は婚約式が行われる日だ。 結局、どうしていいのかわからないままこの日を迎えてしまった。 「なんとかならないかな……」〈君が会場に乱入して王女を攫さらってきたら?〉 エルフリード…

第87話 前夜

 メルヒオルは屋敷の客間で、客人と机を挟んで向き合っていた。「君がわたしの屋敷に来るなんてね。わたしは原稿の執筆をやめて、遺言状でも書いたほうがいいのかな」 客人の男がじろりとメルヒオルを睨む。「……どういう意味だ」「わざわざ君がわたしの屋…

第86話 最後の決闘

 次の日の早朝、ルイスはいつも通り稽古を終えたあと、指定された場所でエミリアを待っていた。 勇気を振り絞って開けたにもかかわらず、手紙に記されていたのは日時と場所だけだった。 しかし、時間になってもエミリアはやって来なかった。 彼女は自分が…

第85話 相談

「ルイス……なんでここに」 リートがそう言うと、ルイスが近寄ってきた。「ミヒャエルに頼まれたんだ。仕事に必要だから調べてくれと。君こそどうして――」 しかし、ルイスは言葉の途中で突然はっとしたように周囲を警戒した。「どうしたの?」「いや、な…

第84話 図書室で

「じゃあ、僕が字を読めるようになったのも君のおかげだったの?」 リートが目を丸くして言うと、エルフリードがうなずいた。「そう。言語だけ僕の記憶から取り出せるようにしたんだよ。君の世界にある外部記憶装置に接続するみたいにね。君の世界に行くまで…

第83話 ライバル未満

「……ルイス」 エミリアはそれだけ言うのがやっとだった。 なぜ、よりにもよってこんなところを見られてしまうのだろう。 いつも自分たちは間が悪いことの連続で噛かみ合わない。 バツの悪い思いで固まっているエミリアとは対照的に、ミヒャエルはまった…

第82話 愛がなくても

 ルイスと別れて部署に戻った瞬間、騎士たちの視線が一斉に自分に集中したので、ミヒャエルは当惑した。しかし原因はすぐにわかった。 自室の前に、トリスタンが直立不動の姿勢で立っている。 それが意味することはひとつだった。 トリスタンが扉を開け、…