RIHITO

第81話 聴取

 「聴取の内容はおまえが記録してくれ。おまえのことだから、速記もできるんだろう?」 庁舎に戻ったミヒャエルがルイスにそう言うと、ルイスが怪け訝げんな表情になった。「できるが、おまえの部下はアルフォンスだろう。頼めない理由でもあるのか?」 ミ…

第80話 リートの計略

 リートは、ハーナル騎士団の庁舎にある中庭の長椅子に腰掛けて、ミヒャエルが来るのを待っていた。傍らには近衛騎士が立っている。 今は近衛騎士二人が交代でリートの護衛をしていた。 それは、ヴェルナーが責任を取って辞めると申し出たせいだった。 リ…

第79話 メルヒオル、去る

「え……?」 メルヒオルの言葉を聞いたリートの第一声はそれだった。 エミリアも納得できないという顔でメルヒオルを見た。「しばらく休むって……どうして?」「なに、少し休暇を取るだけだ。この機会にやりかけだった本の執筆の続きでもしようかと思って…

第78話 彼らの行動原理

 リートは車寄せに停とめた馬車から降りると、ヴェルナーを伴って部屋に戻った。 しかし、扉を開けようとしたヴェルナーが無言で自分に目配せした。 鍵が開いている。ヴェルナーは警戒しながら扉を開けたが、中の光景を目にした瞬間息を呑のんだ。 そこに…

第77話 二度目の招待

「そろそろ戻りましょう」 ヴェルナーに促され、リートはうなずいた。 二人は無言で元来た道を歩いた。 しかし、二人の行く手を阻むように、出口のところに黒い法ほう衣え姿すがたの男が立っていた。 ヴェルナーが警戒した顔で、リートを庇うように前に立…

第76話 リートの決意

 次の日の朝、リートはエミリアに言ったとおり、ライナスの眠る墓地を訪れていた。「久しぶり」 あのときにはなかった真新しい墓石の前に、リートは花を手向けながらその場にしゃがみ込んだ。墓石には、彼の名前と生没年がリヒタール文字で刻まれている。「…

第75話 せめて自分らしく

 リートは、ユストゥスとエヴェリーンの復元された台本を読みながら、ぼんやり考え込んでいた。 それは、ルイスの暗あん誦しょうする内容をリートが母国語で書いたものだった。 いつもの自分なら、だれかの記憶に頼ったものなど信用しなかった。 人間の記…

第74話 求めているもの

「……君はお人ひと好よしだな、リート」 ミヒャエルはそう言いながら、制服の上着のポケットから懐中時計を取り出し、蓋ふたを開けた。「もうこんな時間か。時間が経たつのは早いな」 リートは、ミヒャエルの時計をじっと観察した。この懐中時計の鎖には、…

第73話 湖畔で

 庭園の端に広がる湖の土手に、リートは腰を下ろした。 この数日、リートは時間があればずっとここで物思いに耽ふけっていた。部屋にいるのは息が詰まったし、良くない感情に囚とらわれて抜け出せなくなってしまいそうだったからだ。 膝を抱えて座り込み、…

第72話 だれが彼女を殺したか

 扉が開いた瞬間、リートは緊張した。「おはよう、リート」「おはよう、ルイス」 しかし、リートはそこから言葉が続かず口を閉じた。こういうとき、なんと言っていいのかわからなかった。 ルイスとまともに話したのは、葬儀の日以来だった。「わたしがいな…

第71話 礼拝堂で

 ルイスは泣かない人だ。 エミリアはそう思っていた。 一般的に、男性は人前では泣かない。 だがおそらく彼は、子どもの頃から今までだれかが見ている前で泣いたことがない。 エミリアには、なぜかそんな確信があった。 しかし、自分は一度だけ見たこと…

王女と少年

「……やめろ」 気に入らない。 たかが一介の貴族が、王女である自分に命令するなんて。 鋭くこちらを睨にらんでいる少年と対たい峙じしながら、エミリアはそう思った。 エミリアは背中を踏みつけていた足を芝生の上に下ろした。 その瞬間、クラウスは負…