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第14話 契機

 シュンはぼーっとしていた。 会議室では、同僚たちが筆記用具を準備したり、隣近所で談笑したりしていたが、シュンは持ってきたタブレット型端末の電源も入れず、ぼんやりと机の前に坐っていた。 集中しなければならないことはわかっていたが、どうにも身…

第13話 この世界のルール

 外で食事をしていると、シュンはたまに違和感を覚えることがあった。 気を抜けば、自分はいつこういう世界から転がり落ちても不思議じゃない。 なぜか、そんなふうに思ってしまう。 こ・う・い・う・世・界・。それは、携帯電話のアプリでだれかと連絡を…

第47話 後悔

 リートたちが螺旋階段を上って地上に出ると、そこには夜会用のドレスから普段着に着替えたエミリアがいた。隣にはゾフィーもいる。周りにはアルフォンスたちハーナルの騎士が控えていた。「ユーリエ!」 ゾフィーがユーリエに急いで歩み寄る。「なぜこんな…

第46話 地下での遭遇

 逃げ惑う人々の中で、ルイスとルーツィアはなんとか移動しようとしていた。「ルーツィア!」 繋つないでいた手が離れ、人波に浚さらわれそうになったルーツィアをルイスは抱き寄せた。ぶつかられ、揉もみくちゃにされながら二人はやっと群衆の中から抜け出…

第45話 ユーリエの部屋

 ゾフィーが扉をノックする。「ユーリエ、天啓者がいらっしゃいましたよ」 そう言ってからゾフィーは扉を開けると、長くなりすぎないようにとくぎを刺し、リートを中に促した。 入った瞬間、リートは拍子抜けした。 なんとも無機質で殺風景な部屋だ。 リ…

第44話 気づきと誘い

「……ルーツィア」「はい」 ルイスに名を呼ばれ、ルーツィアが歩きながら顔を上げる。「……わたしは大人気ないな」 ため息交じりにルイスがそう言うと、ルーツィアは微笑んだ。「いいえ。ありがとうございます。守っていただいて」「君がそう思ってくれて…

第43話 前夜祭当日

 前夜祭の当日、リートは億おっ劫くうな気持ちで一日中ソファに寝転がっていた。 まるで行く気になれない。 そろそろ支度しなければならない時間だったが、まったくと言っていいほどやる気が起きなかった。 だが土壇場でやめるわけにはいかない。なにせ劇…

第42話 血まみれのエヴェリーン

 メルヒオルの部屋の前で、リートは深呼吸した。 ただ頼み事をするだけだ。怖くても、恐れる必要はない。 リートは緊張しながら部屋に入ったが、そこには先客がいた。髪も髭ひげも見事に白い老年の男がソファに坐っている。確か宴のときに見かけた人物だ。…

第41話 歌劇への招待

「結局、今回の件はディートリヒが爆破の犯人で、それに気づいたイェンスが口封じのために殺されたということになった」 ミヒャエルが復帰し、リートの部屋にはいつもの四人が集まっていた。「ブロスフェルト卿きょうはハーナルの担当からは外れたけれど、そ…

第40話 食事会

「いやー、楽しみだなー」 そう弾んだ声を出すヴェルナーに、リートは思わず笑っていた。「嬉うれしそうだね」「だって、あのガブリエレ様に会えるんですよ? こんな機会は滅めっ多たにありません」 リート、ルイス、ヴェルナーの三人は、ミヒャエルの屋敷…

第12話 ホーム?シック

 帰ってきた翌日、シュンは久々に出社したが、一日サボったときと同じように、社員たちは挨拶を返す以外はなにも反応を示さなかった。 ジーンの作った分身は、自分が不在のあいだ、つつがなく仕事をしていたらしい。 タイムカードの記録もきちんと残ってい…

第11話 シュンの夢

「帰りたい?」 そうメグに訊きかれたのは、力を使う練習をしてから、彼女の出した昼食を食べていたときだった。「帰っていいの?」「あなたがそれを望むなら」「でも、また雨が降りだしたら?」「大丈夫よ。じゅうぶんすぎるくらい一緒に遊んでもらったから…