第60話 エミリアの葛藤
「お待ちください、殿下!」「待たない」 背後にかかるゾフィーの声に、エミリアは小声でそう返した。 どこまでも追いかけてくるゾフィーに苛いら立だちながら、エミリアは王宮の中を足早に歩いていた。元はと言えば、授業に身が入らず、ゾフィーの講義を途…
第61話 失恋
書いても書いても終わらない。 リートはため息をついた。 手書きで台本を復元するのは骨が折れた。リートはこんなに長時間、自分の手で文字を書くのは久しぶりだった。 自分の世界では、電子演算装置パーソナルコンピュータに鍵盤型入力装置で文字を出力…
第62話 気まずい二人
最後の台詞せりふを書いて、リートは机の上に突っ伏した。「終わった……」 今はそれしか考えられなかった。 人は長期間取り組んでいたなにかが終わったとき、感慨に耽ふけるより先に空っぽになってしまうものらしいとリートは思った。「できたよ、ルイス…
第63話 内通者
「あったよ」「ありがとうございます」 リートがハンカチーフを差し出すと、ルーツィアは大切そうに受け取った。「まだ使っていたのか」 ルイスが目を細めて言うと、ルーツィアが微笑んだ。「ルイス様がわたくしに初めて贈ってくださった物ですから。大事な…
第64話 最後の告白
ミヒャエルが案内した先はバルコニーだった。ミヒャエルが人払いしたらしく、そこにはだれもいなかった。「どうしたんだ? わざわざわたしに用なんて」 開け放たれていた窓を閉めながら、ミヒャエルがそう言った。「ちょっと気になることがあって」 言い…
第65話 迷宮の先に
「やめろ、ルーツィア!」 短剣を避けながらルイスは叫んだが、ルーツィアはやめなかった。悲痛な表情を浮かべ必死に叫ぶ。「お逃げください、ルイス様! 早く!」 その言葉を聞いてルイスははっと周りを見渡した。幾つもの黒い影が音もなく自分たちにじり…
第66話 ミヒャエルの過去
ユーリエがふっとメルヒオルの前に現れる。「ルイス様は宿舎の自室にお運びしました」「ありがとう、ユーリエ」 メルヒオルはそう言ってユーリエに微笑んだあと、応接用のソファに項うな垂だれて坐っているミヒャエルに視線を向けた。「……ミヒャエル」「…
第67話 夢と過去
ミヒャエルの話を聞いたリューディガーがうなずいた。「なるほど。その女はベギールデに弱みを握られていたんだな」「はい」「殺害予告を受けた人間が内通者とはな。奴やつらも考えたものだ」 副団長のブルーノが考えながら言う。「彼女は以前からベギール…
第68話 懺悔
リートは重たい瞼をなんとかこじ開けた。 話が終わったのは午前零時頃だったが、リートは明け方になるまで眠れなかった。 ミヒャエルはリューディガーに報告したあとどうしたのだろう。あのまま一睡もせず捜査に戻ったのだろうか。 そして、ルイスは目を…
第69話 彼女のために
王宮に戻ったリートは、ヴェルナーと手分けしてルイスを探した。 ヴェルナーが宿舎を見てくると言ったので、その間にリートは自分の部屋を見てみたが、ルイスはいなかった。 ヴェルナーがリートの部屋に入ってくる。「宿舎にはいらっしゃいませんでした」…
第70話 むなしい言葉
「大丈夫ですか?」 物思いに耽っていたリートはその言葉ではっとした。ユーリエの薄紫色の瞳が、じっとこちらを見つめていた。 初めて会った日に、ルーツィアにもそう訊かれたことをリートはふと思い出した。 葬儀の翌日、リートは聖殿に来ていた。特に目…
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2022.1
